《第91話》

ライムライトが見えるか

 かつては、商業施設やビジネスビルが密集していたはずの中心商店街。しかし最近はどこでも、更地や空き店舗が目につきます。特に更地になってしまうと、悲しいことには、そこにあった店舗の姿も店主の顔も、人々の記憶から次第に消えていくものです。
 人口のドーナツ化現象や郊外店の増加が、中小小売店の売上に打撃を与えることは、商店街関係者は十分承知していたはず。ではなぜ、手をつくさないままで、衰退への道を歩んでいる商店街が多いのでしょうか。
 大きな理由は、お金がかかることへの挑戦が怖い、ということもあるでしょう。ハード整備にも、店舗改装にも、自己資金が必要。年金の行く末が不透明だし、老後の生活のための貯蓄は確保しておきたい。だから新たな挑戦は避けて、現状で身を守りたいという心情。それは十分察しられるものです。
 将来の生活への経済的不安。それは何も、商業者にかぎったことではありません。すべての中高年に共通する不安です。しかし振り返ってみると、日本は戦争で、家や財産の多くを焼失。それでも人々は、何もない戦後の焼け跡から力強く立ち上がりました。当時と比べれば、信じられないほど豊かな暮らしを、現在は過ごしているはずです。それなのに将来への不安感は、何もない戦争直後より、豊かな現在の方がずっと強いように思えます。それはなぜでしょうか。チャップリンの映画の中に、解明するヒントがありそうです。

チャップリンの名言

 映画の王様チャップリンは、出演作の中でも数々の名言を残しました。特に有名なのが、『ライムライト』で使われた次の台詞です。

人生を恐れてはいけない。

人生に必要なものは、勇気と想像力。

それとほんの少しのお金だ。


 この映画でチャップリンは、老いた売れない喜劇役者。酒びたりで、人生を捨てたような暮らしをしていました。でも足に障害を負った若いバレリーナと知り合い、自身のバイオリンを質に入れてまで、彼女の舞台復帰を助けようと奮起します。ついに彼女は舞台に復帰してスターに。そしてエンディングでは、彼女が用意した舞台の上で、老いた喜劇役者はライトを浴びて輝きました。ちなみにライムライトとは、主役に当てる、当時の舞台用照明ライトのことです。
 
 お金が足りなくても、不安になるな。その分は勇気と想像力でカバーできる。そうすれば必ず、自分の人生が切り開けるものだ――それがチャップリンが訴えたかったテーマでしょう。さて、いまの日本。みんながほどほどの資産を手に入れた代わり、行動する勇気と想像力をなくしているのではないでしょうか。それが日本を覆う、巨大な不安感の源だったように思えてなりません。

商業という舞台で
 
 商業の世界を演劇にたとえるなら、消費者は観客。そして個店や商店街は、いい商品、いいサービスを見せる舞台と考えられそうです。そして、たとえ舞台は小さくても、商品とサービスの質を磨いて精進すれば、ファンを喜ばせる小劇場になることはできるはず。ファンは舞台の大きさではなく、舞台の質を見に来るのですから。
 
 だから、活性化に取り組まないまま更地や空き店舗が増えるのは、いわば舞台を放棄して、ファンに見捨てられた状態ともいえそうです。「お金がないから」と嘆かずに、勇気と想像力をフルに働かせて、もう一度舞台を輝かせようと努力すべきではないでしょうか。
 
 もちろん大型店に比べれば、商店街や中小小売店の舞台はきわめて小さいものです。でも真剣な取り組みがあれば、必ず観客である消費者を魅了できるはず。どうぞ顔を上げて、あなたの舞台で、精いっぱいの商業道を演じ抜いてください。


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