《第93話》

ゴジラが教えてくれた
 

 消費者にとって、小売店のアイテム数は、店選びの上での重要な要因です。商品の種類は多ければ多いほどいい。そしてたくさんある商品の中から、自分が一番気に入った商品を選びたい。それが現代における、もっとも一般的な買い物心理と考えられます。
 ということになると、多くのアイテムを詰め込むために、店舗は必然的に大きいことが求められます。たとえば本を買う時。本当に欲しい本を探そうと思えば、消費者は書籍の多い大型書店に足を運ぶでしょう。また週末に食料品をまとめ買いするには、大型ショッピングセンターなどに足を運ぶことが多いはず。そういう需要に応えるために、店舗はアイテム数を充足させるための“箱”として、巨大化を指向してきました。
 しかし私たちの身近には、単一アイテムで行列のできる店もあります。たとえばたこ焼き、シュークリーム、コロッケの名店など。あるいは『通販生活』(カタログハウス社)のように、環境にやさしい製品など吟味したアイテムのみの紹介という手法で、顧客満足を生み出している事例もあります。とすると消費者をひきつけるカギは、アイテム数の多さだけではない、という気がしてきます。

ゴジラを大きく見せる

 1954年の誕生から半世紀。ゴジラはシリーズとして熱烈なファンに愛されてきました。その初期の作品の多くは、特撮の部分は円谷英二監督によって、そしてドラマ部分は本多猪四郎監督によって手がけられました。
 たとえば、人々が空を見上げてゴジラを恐れるという、本多監督の撮影現場には、実際にはゴジラはいません。人々は空を見上げながら、そこにゴジラがいるかのように演技をしているだけです。しかしそのドラマシーンに、円谷監督の特撮シーンをつなげば、映画館のスクリーンでは、ゴジラの恐怖は、観客にみごとに伝わることになります。
 当初の設定ではゴジラは体長50メートル。でも50メートルの実物大モデルをつくる必要はありません。俳優たちはゴジラが見えるかのように演じるだけでよかったのです。肝心なのは実物大モデルという『事実』をつくることではなく、スクリーンを通じて観客に、ゴジラの脅威という『真実』を描いてみせることでした。
 そして何といっても、ヒットの最大要因は、ゴジラという稀有のキャラクターづくりにあるでしょう。まさにすぐれたキャラクター(いわば単一アイテム)は、それだけでお客が呼べる、ということを証明する好例です。

元気な小さい酒販店

 日本酒離れ、価格競争、異業種からの参入などで、厳しい状況にある酒販業界。でも中には、小さくても元気のある酒販店もあります。それはたとえば、蔵元との信頼関係を確立して、直接仕入れ・定価販売を可能にした店。一般には高値流通している酒、入手困難な幻の酒がリーズナブルな価格で買えるなら、日本酒好きは足を運ぶでしょう。この場合まさに、アイテム数が多いかどうかより、とびきり強力なアイテムの存在が、繁盛のポイントになるのは明らかです。
 そういう酒販店なら、お客は店と蔵元とのつながりも、店内の雰囲気や店主との会話から感じることでしょう。そうすれば店が小さいという事実より、名だたる蔵元とのネットワークを築いたという真実によって、お客は店の存在をぐんと大きく感じてくれそうです。
 店が小さく、アイテム数が少なくても、強いアイテムを持てば厳しい時代も生き抜ける。小さい店も、商いの真実を見つめることで、大きく輝かせることができる。今回のテーマからそのように感じていただけたなら、きっとこれから先、ゴジラはあなたの店の強力な守護神です。

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