《第94話》

魚を呼ぶ鏡
 
 景気は回復傾向といわれますが、それを実感している人はまだまだ少ないでしょう。特に郊外大型店の脅威や、空き店舗増加に悩む中心市街地の商店街からは、回復のきざしなどまったく見えないという、嘆きの声が聞こえてきそうです。
 しかし商店街を歩いていると、人通りのほとんどないような路地裏にも、意外な繁盛店があったりします。周囲の衰退をよそ目に、若者でごった返す古着屋や、行列のできるラーメン店など。不利な立地でも、たかだか数十坪の零細店でも繁盛する店は、どこに集客力の秘密があるのでしょうか。
 おそらく、それらの店を訪れる客は、その店がいい店であるかどうかより、その店が客でにぎわっていることが、最初の来店動機でしょう。自分好みの店であって、なおかつ多くの客が訪れる店なら、ぜひ行ってみたい。そういう客が連鎖的に増えていくことが、繁盛店を生むのに違いありません。
 どんなにファサード(店舗前面)が素敵でも、店内に客の姿がない店には、消費者は入りにくいものです。逆に、どんなに小さい店でも、多くの客でにぎわう店であれば、消費者は強く惹かれるでしょう。つまりは店内に人がいるという、人が人を呼ぶ効果の活用が、集客力アップのカギと考えられます。

ミラーリアクション

金魚の水槽に鏡を入れると、鏡に映った金魚は自分に似た仲間がいると思って、鏡を離れずにその近くを回遊するようになります。すると他の金魚たちも次第にそこに引かれて、やがて鏡の周囲は、金魚が群がるたまり場になります。このように、一枚の鏡によって金魚たちが自然に集まる行動を“ミラーリアクション”と言います。
 金魚と比べるのは気が引けますが、この習性が、まさに人間にもあてはまるものです。有名な行楽地や、東京の新たな観光スポットがにぎわうのは、その場所が魅力的な場所であるという以上に、「みんなが行くなら私も」という心理が、日本人にはあるからです。誰も行かないようなところには行きたくない。人のたくさん集まるところにはぜひ行ってみたい。それが消費行動にも無意識に反映されて、人気スポットはさらに賑わうことになるものです。
 人が人を呼ぶ効果は、レストランの接客にも応用されます。ファミレスといえども、誰も客のいない店には入りにくいものです。そこで開店早々の時間帯は、客を窓側の席に案内するのがセオリー。そうすれば店内に先客がいることが、通行する人や車から見えるからです。つまり「この店にはもう先客がいます。だから安心してご来店ください」とアピールすることで、来店を促しているものです。

アメ横の集客力

 上野のアメ横にはさまざまな業種の店が並びますが、ほとんどの店に共通しているのは、ドアがないか、ドアは開きっぱなしであること。すると通行者は店内を道路の一部と考え、平気で店内を歩き、先客の姿があるので他の通行者も安心して店内に入れるようになります。アメ横はこのような、人が人を呼ぶ効果を上手に活用して、賑わいを達成している好例と言えそうです。
 ではそこから、客数をさらに飛躍的に伸ばすカギ、いわばミラーリアクションを起こす鏡は何でしょうか。業種や地域によっても異なるかもしれませんが、基本は来店した人を魅了するテイストを備え、期待を超える満足を提供すること、ではないかと思えます。それによって店の熱心なファンが増え、人が人を呼ぶ力が上昇していけば、不利な立地でも繁盛店を目指すのは十分可能でしょう。なぜならすでに、路地裏の繁盛店の実例は、各地に存在しているのですから。


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