《第95話》

資産という名の負債
 
「平成15年度商店街実態調査」によると、停滞または衰退している商店街は実に96.6パーセントに達し、繁栄している商店街はわずか2.3パーセントという結果でした。特に地域型商店街※)、近隣型商店街※)において、衰退傾向が顕著に現れているようです(経済産業省中小企業庁実施調査結果)。
では、『商店街における大きな問題は』という設問には、どういう回答が多かったでしょうか。平成2年は「駐車場がない」、平成7年は「大規模店に客足がとられている」がトップ。でも平成12年には「魅力ある店舗が少ない」が一位。そして平成15年は「後継者難」が一位で、「魅力ある店舗が少ない」が二位、「商店街活動への商業者の参加意識が薄い」が三位という結果。つまり商店街衰退の理由を、かつては郊外大型店を主因と考える傾向があったけど、最近は商店街の中に、それも商店主自身の中に、衰退の原因が潜んでいる、と考える人が増えていることを表す調査結果です。
 ではなぜ商店主たちは、経営を蝕む衰退原因を取り除こうとしなかったのでしょう。それはその原因が、“資産”という、守るべき対象だったからではないでしょうか。

老舗は苦しい

 老舗の菓子店にうかがった時、店主の嘆きを聞きました。

「創業者が銘菓を開発したお陰で、ここまでやって来られました。でも最近は、昔風の甘すぎるお菓子は敬遠されます。だから味を変えたいのですが、常連客から苦情が来るのがこわいので、変えるに変えられないんです」

 店を支えてきた銘菓が、今になって店の動きを不自由にしているものです。老舗の看板や銘菓の陳列は、かつては集客の源でした。でも今は、逆に足かせになりかねません。
また商店街でよく聞く話には、次のようなものもあります。

「商店経営のかたわら、駐車場やアパートを経営する人は、そちらの収入もありますからねえ。商店街活性化といっても、なかなか協力が得られないんです」

もちろん不動産オーナーである商店主の気持ちは理解できます。リスクのある活性化事業に加わって、万が一失敗すれば、一生懸命蓄えた資産まで失うのが恐いという気持ち。でも実際はどうでしょう。住宅は慢性的に過剰。市街地には空き地が増え、いたるところが駐車場化。こんな供給過剰状態で、ずっと不動産での安定収入が得られる保証はありません。もしも不動産所有が行動を鈍らせていたなら、それは将来への行動を足止めする、マイナス要因として働いたことになります。

決別する勇気も

 老舗の看板。伝統の銘菓。成功体験。アパートや駐車場経営。それらの有形、無形の“資産”が、経営を支えてきたのは事実でしょう。しかし現状を見ていると、それらの資産が逆に、新しいことへの挑戦の妨げになっている事例が多いように感じられます。業績が下降しているなら、それらはすでに、マイナスの価値に変わった負債とみなすべきかもしれません。
 商業は変化対応産業。守ることより、時代に合わせて変化しようと考えるべきでしょう。ならば、資産が変質した負債は、切り捨てる勇気をもつ。資産を失うのは恐くても、足を引っ張る資産を放棄することが、新たな成果を生む根源ともなり得るからです。
 坂本龍馬は土佐藩を脱藩し、地位や俸禄という“資産”を捨てることで、幕末の日本を動かしました。資産を放り出すと、思い切って何でもできるという、とんでもないエネルギーさえも生まれるものなのでしょう。



※)「近隣型商店街」 最寄品中心で、徒歩、自転車で立ち寄れる日常性の高い商店街。
  「地域型商店街」 最寄品、買回品が混在し、徒歩、自転車、バス等で来街する商店街。


経営逆手塾一覧へ