《第96話》
ミスマッチを狙え
「隣の芝生は青く見える」という言葉があります。自分の仕事がうまくいかないと、他人の仕事がやたらうらやましく見えてくるもの。でも実際はどうでしょう。どんな仕事だって、陰での苦労はつきものです。畑違いの仕事への参入は、想像以上に難しいものかもしれません。
たとえば、公共事業に依存してきた建設業者の多くは、自治体の予算削減で仕事が激減。そこで、『介護ビジネス』に参入する企業が多数生まれました。従業員に資格をとらせ、建設工事が減ったことによる余剰労働力を、有効活用しようというもの。もちろん、中には順調に推移している企業もあります。しかし慣れない事業にとまどい、利益を上げるまでに至ってない事例も、多く聞かれます。
いくら他人の芝生が青く見えても、これまでやったことのない、本業とミスマッチな仕事への挑戦は、リスクが大きいものです。でも場合によっては、ミスマッチをねらうのは、決して悪いことではありません。むしろミスマッチへのチャレンジが、将来を切り開くカギかもしれないのです。
山間の集客力
『伊賀の里モクモク手づくりファーム』(三重県阿山町)は、交通不便な立地にもかかわらず、年間35万人もの来場者がある農業公園。家族やグループが、観光目的で名古屋や大阪からも訪れています。でもここは、観光目的で設置された施設ではありませんでした。
1983年、伊賀豚の養豚農家が集まって、手づくりハムなどの販売を開始します。でも知名度がないこともあり、売上はさっぱり伸びませんでした。そこで打開策として、“ウィンナソーセージ手づくり体験”を開催したところ、これが大ヒット。リピーター増加と口コミで、評判が広がりました。
来場者が増えると、中には「ここで食事をしたい」というお客もいます。そこで鉄板を使い、簡易なバーベキューセットで食事を提供するようになると、これも評判に。そして今では、敷地内に複数のレストランやバーベキューハウスを備えるまでに至りました。
おいしい肉料理を提供するために、モクモクは自前の地ビール工房、パン工房、パスタ工房まで備えます。その後も製品づくりは菓子、豆腐と、着々と増えました。さらに園内でミニ豚のショーを開催したところ、子供たちに大好評。観覧車やジェットコースターなどはなくても山間の農業公園でも、集客力は発揮できるという好例です。
ニーズの連鎖
肉製品が売れないので、手づくりウィンナ体験を実施。来場者が増えたので、レストラン運営に挑戦。飲食部門が軌道に乗ったので、さらに充実させるため、地ビールやパンづくりにも事業展開。家族連れが楽しめるよう、ミニ豚ショーを開催。このようにモクモクは、消費者ニーズを一つ一つ、連鎖でつないで現在の姿を作り上げたものでしょう。
レストラン運営やミニ豚ショーなどは、肉や野菜をつくる農家本来の仕事には、縁のなかった分野。でも畑違い、ミスマッチに見えても、本業の延長線上にあるから、OKなのです。最初はミスマッチに思えても、本業とつながっているから、すぐに溶け込み一体化するものです。そして現れるのは、これまでになかった新しい農業の姿なのです。商業者も、もしも本業の業績が行き詰まっているとしたら、現状にとどまらず、新しい分野への挑戦を考えるべきでしょう。その際の心得は、もうかりそう、簡単に参入できそうということではなく、本業の延長線上にイメージできる事業であること。それがたとえミスマッチに思えても、消費者ニーズの指し示す方向を向いている事業なら、きっとうまくいくはずです。