《第97話》

三方よしマーケティング
 

 2005年も商業の世界では、厳しい戦いが各地で展開されると予測されます。小売店の売場面積は、郊外店進出で増加の一途。それに対し小売販売額は、住民一人当たりに換算すると、おおむね百万円、つまり4人家族で四百万円。消費額に大きな変動のない、ほぼ横ばいの消費生活が続いています。
 パイが増えずに、ライバルが増えれば、配分をめぐる競争が激しくなるのは当然です。勝ち組・負け組や、生き残りという言葉を、新しい年にもいやおうなく耳にしそうです。
 しかし一方では、世間の動向に左右されることなく、マイペースで安定経営を続ける店舗の話もよく聞きます。そのカギは、エリア・マーケティングでしょう。
 日本は地域によってニーズに差があるので、それに合わせた商品戦略を組み立てるのが、エリア・マーケティング。きめ細かい地域特性に対応していく、という考え方です。でも、それだけではありません。エリア・マーケティングには実はもう一つ、大切な意義が含まれているのです。

薄い商圏で

 「国分商店」(福島県浪江町)のある津島地区は、人口約1800人という山間の“薄い商圏”です。その地区の住民は、車を飛ばして大型店に買い物に行くこともできるのに、普段の買い物はほとんど国分商店。住民一人一人の好みまで周知して、それに合わせた品揃えとサービスができるから、顧客が離れる心配がないのです。
 店を切り盛りする国分晶子さんは、農産物直売所の会長も務めています。「農家が元気になれば、地域も元気になりますから」と、農業者たちに陳列やPOP、レジの打ち方を指導。直売所で販売するかぼちゃまんじゅうは、地域を代表する人気商品に成長しました。
 地域特性を把握して、自店の売上げを安定持続させる。それに加え、顧客である農家の直売所運営をお手伝いし、地域の活力向上を図る。これが国分商店が、薄い商圏でも、安定経営を続けられる秘密でしょう。
 その手法は、近江商人の心得として知られる『三方よし』を連想させます。すなわち、売り手よし、買い手よし、世間よし、という教え。取引先と、その地域のお役に立つことが、正しい商いであるという戒めです。近江商人は、たとえ天秤棒一本の小商人であっても、社会に貢献する使命を自覚することで、全国どこでも信頼を得ることができました。
 エリア・マーケティングの真髄は、そこにありそうです。すなわち、地域特性に応えると同時に、地域を豊かにするお手伝いをすること。なぜなら、地域が豊かであってこそ、安定したお買い上げが保証されるのですから。

地域を耕す

 大手チェーンは郊外進出の陰で、不採算店を切り捨てるスクラップアンドビルドを繰り返してきました。言葉は悪いですが、それは土地の栄養を吸い尽くした後、捨てるようなもの。でも限られた国土で、新たな土地を探し歩く手法が、ずっと通用するものでしょうか。それに企業論理とはいえ、それは「自分よし」ではあっても、買い手と世間がよしとしない商い。退店後、買い物に不便をかこつ消費者の嘆きの声が、各地で聞かれます。
 商業は立地産業。だからいい立地を求めて移転するという考え方は、分からないではありません。でも、今いる場所を動かずに、その場所をいい立地に育てるという発想があってもいいでしょう。どんなに小さな店、小さな商圏でも、店の永続は可能。前述した国分商店は、薄い商圏で百年を超えて営業を続けているのです。そのカギは三方よしマーケティング。心を込めて地域を耕せば、どこだって肥沃な商圏に育てることができそうです。



経営逆手塾一覧へ