《第99話》
優良経営は破綻する
景気は回復傾向といわれながらも、企業倒産などのニュースは、今も後を絶ちません。しかもしばしば、優良経営と思われていた店舗の倒産が、私たちを驚かせます。特に世間に衝撃を与えるのは、大型百貨店、多店舗展開の全国チェーン、名だたる老舗などの経営破たんでしょう。
長年の経営ノウハウを持ち、多くの顧客を獲得しているはずの企業が、なぜ経営破たんの憂き目を見るのでしょうか。周囲ではいろんな理由が語られるでしょう。ライバルとの競争に負けたとか、消費低迷のあおりを受けたとか。
しかし実は、もっと根源的なところに、経営が破たんする大きな理由があったのかもしれません。それは、それらの企業は多くの顧客を抱え、蓄積された経営ノウハウを持つこと。つまり優良企業であることが破たんを引き起こした原因かもしれないことです。
改革のジレンマ
「優良企業は、顧客の意見に耳を傾け、顧客サービスのグレードアップを図り、利益を安定確保しようとすると、経営に失敗するおそれがある」
クレイトン・クリステンセン著の『イノベーションのジレンマ』は、具体的事例の分析を元に、その結論を導き出して、世界中に衝撃を与えました。優良企業が、イノベーション、つまり改革を進めることで、経営に失敗するとは、どういうことでしょうか。
優良企業は通常、商品やサービスを向上させ、顧客満足アップにより、利益増を図るものです。しかし消費者の側に、「そこまでの機能やサービスはいらない」と考える客層がいた場合はどうでしょう。そこをターゲットにした低機能、低価格、小型の商品に、優良企業が想定した以外の客層が殺到する、という現象が起きるものです。パソコンや、その記録媒体である小型フロッピーディスクのヒットが、まさにそれにあたります。
そのような、低機能、低価格による参入者を、破壊的イノベーター(改革者)と呼びます。そしてやがて、破壊的イノベーターは技術力を向上することで、低機能は洗練されて『独自機能』と位置付けられるようになり、優良企業の顧客まで惹きつけるようになります。だから優良企業が、それまでの品質やサービスに工夫を加えても、逆に破壊的イノベーターとの差が明らかになるだけなのです。
小売業の場合、その典型例はディスカウントストアでしょう。かつてアメリカで、ディスカウントストアといえば、Kマートを指したものでした。でもそこに、破壊的イノベーターとして登場したのが、ウォルマート。そして今では、ウォルマートが小売業トップの座に上り、ディスカウントストアの代名詞になっています。
小さな常識破壊
もっとも『イノベーションのジレンマ』は、業界トップを走るような、大企業を対象にした分析書です。お読みになって、中小小売店には関係ない、と思われた方もいるでしょう。
ただ、発想を少し変えれば、小さな商店でも応用できることがありそうに思えます。新製品開発という『破壊的イノベーター』になるのは無理であっても、業界の常識破壊、という取り組みなら、可能なのではないでしょうか。
たとえばスーパーに並ぶ野菜は、見栄えがよく管理しやすいよう、規格品がそろえられます。そこに着目すれば、規格外の野菜を、安く販売するという道が見えてくるように。実際、インターネット上では、そうして販売される、低価格の規格外野菜が、多くの消費者に喜ばれています。このように、心をしばる業界の常識を壊してみれば、中小小売店にも意外と進路は見えてきそうな気がします。