《第102話》
逆算するマーケティング
「こういう製品を作ったのですが、どうやって売ったらいいでしょうか?」
町工場の社長が目の前に出したのは、あるアイデア製品でした。ユニークな発想を生かした斬新な製品ですが、商品として販売するとなると、売れるという保証はありません。商品には、商品力だけでなく、販売力も絶対必要なものです。
江戸時代の発明家として知られる平賀源内は、エレキテル以外にも量程器(歩数計)、火浣布(かかんぷ=燃えない布)などを開発しています。しかし、どの発明品も広く普及することはありませんでした。対照的に、同じように発明家であるエジソンは、各種発明品の販売に成功。ついにはGE(ゼネラル・エレクトリック)社を創業させました。
源内とエジソンの違いは、マーケティング発想の有無でしょう。消費者の暮らしをイメージし、そこから逆算して、必要な商品とその販売方法を構築すること。エジソンはそれにより、発明家としてだけでなく、事業家としても成功を納めたものです。
薬売りの知恵
江戸期から普及した「越中富山の薬売り」は、すぐれた二つのマーケティング手法を構築した事例として知られています。一つは、薬を無料で配置して、後で使った分だけ支払っていただく『先用後利』。もう一つは、それぞれの顧客に合わせた『ワンツーワンマーケティング』。すなわち、使った薬を見れば、その家庭の健康状態が分かり、それに応じた薬の配置やアドバイスが可能になるものです。いずれも世界に先駆けて、薬売りが開発した先進的な手法でした。
でも実は、薬売りの極めつけのマーケティング手法は、もう一つありました。それは、知らない土地の知らない家庭に、薬を配置できたこと。それが薬売りマーケティングの、最大の秘密だったと思えます。
当時の薬売りは、訪問した町村の辻に立ち、子供たちを集めて紙風船などをあげます。手品やお話で楽しませることもあったでしょう。
そして日が暮れかけたら、薬売りは子供のうちの誰かを家まで送ってあげます。その子の母親は感謝して、薬売りを台所など家の中に入れて、休んでもらうはずです。
そこで薬売りは、各地のお話などで母親も楽しませ、おいとまする前に、「よろしければ薬を置いてまいりますよ」と提案します。無料で配置してくれるなら、江戸時代の妻の立場でも、即座に了解しやすいでしょう。こうして薬売りは、知らない土地で、知らない家に、薬を配置することができたのです。
究極の極意
薬を配置したその家にとってみれば、薬売りは「とても親切な商人」です。子供が紙風船をもらい、日が暮れかけたら子供を家まで送ってくれて、母親も各地の話を楽しませてもらい、しかも帰り際に薬をただで置いていってくれたのですから。
でも、薬売りにしてみれば、薬の配置にみごとに成功しています。知らない家に薬を置くには、最初は無料の方がいい。その家に入れてもらうには、その家の子供といっしょに帰ればいい。子供を喜ばせるには、紙風船や手品で楽しませればいい。このように販売時点から逆算していけば、辻に立って子供たちを集めた理由が理解できるはずです。
冒頭にあげた町工場の社長にも、この薬売りの話を差し上げました。家庭内で、その製品を使うシーンから逆算していけば、きっといいマーケティングのアイデアが浮かんでくることでしょう。
なお薬売りの一連の行動には、実はもう一つ、すごい秘密がありましたが、お気づきでしょうか。マーケティングの究極の極意を、どうぞ探り出してください。