《第107話》
売らない販促
「新聞折込チラシ?DM?最近やっていないんですよ。だって経費をかけても、それだけの効果がありませんから」
商店主との会話の中で、そういう声を聞くことが最近増えました。たしかに、大型店の大判チラシや、企業の洗練されたDMと比べれば、まちの商店の販促力は劣るかもしれません。でも、それを理由に、販促をやらなくていい、ということにはならないはずです。
チラシやDMは、“お客様への招待状”。店からの案内がなければ、どういう商品をアピールしたいのか、お客様に伝わるはずがありません。売上減少の原因の一端は、販促の努力を放棄した店主自身にもありそうです。
とはいえ、販促の効果が得にくい時代であることもたしかです。商品と価格を羅列しただけの販促媒体では、“ゴミ箱直行”の運命をたどりかねません。従来の販促手法にとらわれずに、消費者の心をつかむ、新しい販促を考えるべきでしょう。
売らないスタンプラリー
福島県矢吹町には、周辺に次々と大型店が進出。そこで、まちなかに人を呼び込もうと、商工会青年部が中心となって取り組んだのは、『家族にがおえ展やぶき120店スタンプラリー』というイベントでした。
商工会青年部は、町の教育委員会の後援を得て、地元の小学生の描いた家族の絵を集め、それを参加店の店内に数枚ずつ展示。自分の子供や孫の絵を見たい住民の方が、参加店を訪れると、台紙の自店の欄にスタンプ(印鑑)を押すというものです。
おもしろいのは、参加店を巡り、お目当ての絵を見つけても、ラリーをそのまま続ける人が多かったこと。「もっと他の店の絵も見たい」と、店舗巡りが楽しくなるのでした。
120店中、80店以上のスタンプを集めた人には記念品プレゼント。そしてすべて完走した人には、一万円分の町内共通商品券5枚が準備されました。まさかすべての店を巡る人は、そうはいないと考えられたからです。しかし、完走した人は予定の十倍に達しました。予想をはるかに上回る人が、まちなかの店舗めぐりを楽しんだのです。
さて、このイベントの効果は何でしょう。まちなかを訪れた人たちは、店内で子供の絵を鑑賞して、スタンプをもらって帰るだけです。たぶん買い物はしません。しかしこのイベントがなければ、たぶん一生、その店に入る機会はなかったでしょう。絵を見るついでに店内を見渡せば、「初めて入ったけど、いい店のようだ。今度ゆっくり買い物に来てみよう」と思う人もいてくれるはず。つまり絵を見るという“来店動機”により、将来のお買い上げの芽が生まれたことになります。それがこのイベントの、すばらしい効果です。
売らない繁盛店
福島市の化粧品店Pは、ほとんど人の通らない街路に面した小さな店。それにもかかわらず、圧倒的な販売力を誇る繁盛店です。その秘密は“売らないこと”でした。
お得意様が店に入り、エステ用ベッドに横になると、無料でお肌の手入れサービス。お客様はその後、たいてい何も買わずに帰ります。それを店員は笑顔で見送ります。
そして何日か後、そのお客様は再来店。「この前の化粧品、とてもよかったから、いただくわ」とお買い上げになるものです。売ろうとしないので、安心して来店できると口コミが広がり、強い販促力になった事例です。
売ろうとしないことが、売上につながる。逆説的なようですが、消費者の視点で考えれば、それが正しいと分かるでしょう。販促に二の足を踏んでいた方は、今度はぜひその視点での、チラシとDMづくりにトライしてみてください。