《第111話》

「鼻くそ」を売る方法



 新製品を出すとき、注目を集める商品名やパッケージを考慮することは、非常に有効なマーケティング戦略です。たとえば、テレビや漫画で人気のキャラクターを活用すれば、高い確率でヒット商品が生まれるでしょう。

 ただ、その手の人気キャラ商品が、ずっと売れ続けるという保証はありません。消費者には“飽きる”という習性があるからです。売れ行きを持続させるには、購入した人を満足させる商品力が必要です。

 ネーミングや包装の魅力で商品を手にとってもらう。そして商品自体の力で、リピーターをつくる。つまり、販売力プラス商品力が、安定した売上をつくるための法則といえるでしょう。そしてその法則を活用できるなら、小さな店であっても、売上アップを図る活路を開くことは可能なはずです。

 それをやってのけたのが、人口三万人の島根県平田市(現・出雲市平田町)にある岡伊三郎商店。作った商品は『ゴリラの鼻くそ』という、実にユニークな名前の黒豆薄甘納豆でした。

販路を動物園に絞る

 岡伊三郎商店は、酒の小売業でした。でも酒ディスカウント店の進出や、コンビニでの酒類販売が広がるにしたがい、次第に業績に暗雲が広がるようになりました。そこで経営者の岡和正さんは、ご夫人の実家で製造していた黒豆薄甘納豆に目をつけ、それを販売して業績アップしようと決意しました。

 ただ、小さなまちの酒販店が販売したところで、注目を集める可能性は低いでしょう。そこで思案の末、浮かんできたのが、『ゴリラの鼻くそ』という奇抜なネーミングでした。

 「形がゴリラの鼻くそみたいだ」という落語仲間の一言が、ネーミングの元になりました。従来の菓子メーカーには絶対できない発想であり、しかも一回聞けば絶対忘れない、笑いが生まれるネーミングでしょう。

 岡社長はさらに、「『ゴリラの鼻くそ』を売るなら、一番ふさわしいのは動物園だ!」と瞬時にひらめき、動物園の売店で売ってもらおうと決断。広島市の安佐動物公園を皮切りに、自ら全国を営業活動に奔走しました。

 動物園にしても、売店に人気商品が生まれるのはありがたいことです。こうして全国の動物園の売店に、『ゴリラの鼻くそ』は次第に広がっていきました。そして発売5年で、売上はトータル200万個を突破しました。

英語版 発想はさらに広がり、今年はついに英語版の『Gorilla boogers(ゴリラの鼻くそ)』が誕生。島根県の小さな会社から生まれた商品は、海を越えてアメリカに上陸するまでに成長したのでした。

販路はいくらでもできる

 『ゴリラの鼻くそ』が売れた理由は、ネーミングのユニークさだけではありません。食べてみると、甘さを抑えた上品な味わい。それが、再購入を促進した要因でしょう。

 売り場を動物園に絞ったことも成功でした。マスコミに何度も取り上げられ、無料で宣伝してもらえたからです。もしも問屋を通じ、広く全国の食料品店売場に並べたら、他の菓子群の中に埋没したかもしれません。アイテムの少ない動物園の売店だから、ユニークさがなおのこと目だったものなのでしょう。

 さて、岡和正社長は「後続商品は考えていません。ゴリラの鼻くそ一本でこれからもやっていきます」と言います。人気商品とはいっても、地方発の商品。知る人は全国の中では、まだまだ少数です。だからこそ、知らない人や地域を開拓していけば、販路はいくらでもできるという信念があるのでしょう。

 いま『ゴリラの鼻くそ』は販路を広げ、高速道路のサービスエリア売店などにも並ぶようになりました。あなたのすぐそばにも、もうすぐ登場するかもしれません。







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