《第113話》
跳べない犬
いま、日本の経済状況は、いいでしょうか、悪いでしょうか。そう。「景気はいい」というのが答えですね。マスコミでは、大企業や都会での好調な景気回復の事例が、よく報道されています。
でも地方都市で、そして中小小売店においては、景気回復を実感していない人が、ほとんどでしょう。好景気が地方に波及するまでのタイムラグ(時間差)のせいもありますが、そうではない理由もありそうです。それは、活性化に必要な一歩を踏み出せない人が、意外なほど多いということです。
後継者難、店舗老朽化、駐車場不足などは、どこにもありがちで、なかなか解決できない課題。そんな難題山積みのところに郊外大型店出店が相次げば、「やはり何をやってもムダだ」というあきらめ感が、商店街など多くの中小小売店に蔓延するのは、ありがちなことです。
でも、気力を失い何もしなければ、何も成果が生まれるはずはありません。世間が好景気というなら、その波に乗るための、跳躍が求められます。つまり現状を打破するには、ジャンプする勇気が絶対必要なのです。
心理学実験
犬を囲いに入れて、床に電流を流す、という心理学実験があります。電気の刺激に驚いた犬はジャンプし、囲いの外に出ます。では、もっと囲いを高くすればどうでしょう。再度電流を床に流せば、囲いが高くなっても、犬は即座に跳び越えます。「ジャンプすれば痛みから逃げられる」ということを、最初の体験で学んだからです。努力すれば成果が得られる。これを心理学では、努力と結果の『随伴性の学習』と言います。
では、跳び越すのが不可能な高さの壁で囲ったら、どうでしょう。電流の衝撃から逃げようと、犬は必死に何度もジャンプ。でもそれが不可能と分かると、じっと横たわって耐えるだけになります。このように、努力が報われない状態に置かれ、行動意欲を放棄することを『非随伴性の学習』と言います。
では、脱出意欲を失った犬の、囲いを最初の低さに戻したらどうなるでしょう。今度は犬は、跳ぶ意志があれば跳び越えられるはず。でもおそらくは、じっと動かないままでしょう。「努力してもムダ」という非随伴性を一度学習してしまうと、やればできることでも、できなくなる、ということが起きるのです。
これがまさに、行動を起せない人にもある心理ではないでしょうか。「どうせ何をやってもムダなんだ」という気持ちが、『非随伴性の学習』として、中小小売店の行動力を奪ってきたこと。商店街衰退の原因も、そこにあったのかもしれません。
ジンクスを変える
では『非随伴性の学習』をしてしまい、行動力を失った商店街、中小小売店は、どうすればいいのでしょうか。それにはスポーツ選手のように、“ジンクス”を使うという手がありそうです。
たとえばスポーツ選手は、敗戦が続いたら、食事を変える、靴下の色を変える、目的地への道順を変える、など。単純なことですが、それで心のスイッチを切り替えることができるのです。
だから、あなたなりのジンクスを作って、ジャンプする勇気を奮い起こしてみてはどうでしょう。商業者であれば、もっともお薦めのジンクスは“掃除”。あなた自身で、店の掃除を一生懸命やってみることです。特にトイレ掃除を熱心にやれば、何にでも挑戦できる開き直り精神が、わきあがってくることは確実です。今日から、掃除をあなたのジンクスにしてみませんか。元気が湧く上、店がきれいになるのですから、一石二鳥ですよ。