共感経営のすすめ
かつて百貨店は、庶民にとっては休日の何よりの楽しみでした。おめかしして家族そろって出かけ、屋上遊園地で遊び、大食堂でお子様ランチを食べる。それが当時の子どもたちにとっては、最高に楽しい休日の過ごし方だったものです。
でも今は、休日でも閑散としている百貨店を多数見受けます。市街地の百貨店は駐車が難しいことに加え、委託販売主体なので価格が高いこと、商品を見て歩いていると、従業員がすぐ近づいてきそうなのがうっとうしいこと、なども百貨店が敬遠されるようになった理由でしょう。
それに加え、もっと本質的な問題も潜んでいそうです。それは、昔、百貨店を訪れたときに感じたわくわくした気分が、今は感じにくいということです。ではなぜ、わくわく気分が感じられなくなってしまったのでしょうか。そこには、“消費者心理”という手ごわい相手がいたかもしれません。
ツァイガルニック効果
人間は、常に品質のよいものを望むかというと、実はそうとはかぎりません。品質レベルの高いものは、最初は満足を感じても、次第に“飽きる”というのはありがちなこと。逆に不完全なものであっても、その欠点まで含めて、強く心をひかれることがあります。それを心理学用語で『ツァイガルニック効果』といいます。
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「どうして一流企業の彼氏と別れたの?」
「そりゃ、すごくいい人だけど。あの人完璧すぎて、一緒にいると疲れるのよ」
「で、今度の彼氏はフリーター?」
「でも、あの人、すごい目標に向けて頑張っているの。だから私までわくわくするのよ」
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「人気のラーメン店、店を新築したそうだよ」
「うーん…。じゃ、やめとくよ」
「どうして?」
「あの店は古いけどうまいっていうのがよかったから。店が新しくなったんじゃ、普通の人気店と変わりないじゃん」
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そういう心理がツァイガルニック効果です。へそ曲がり的ではあっても、多かれ少なかれ、そういう心理は誰の心にもあるでしょう。
百貨店は十九世紀の誕生以来、夢を詰め込んだフォーマットを築いてきました。でも、内装や商品群をどんなに充実させても、慣れてしまえば消費者は、“満足”は感じても、“わくわく”は感じにくくなります。消費者が百貨店にときめきを感じない背景には、そういう心理が働いていたのかもしれません。
弱点を生かす
百貨店にかぎりません。各業態は時代に合わせて変化し、理想の完成型を求めてきました。でも、そうしてできあがったスーパーやコンビニ、ホームセンターに、ときめきや愛着を感じるでしょうか。商品数や価格、駐車場などの条件だけが、たぶん店選びの際の基準にすぎないはずです。
では、改装もままならない商店街や中小小売店はどうでしょう。現代の商業環境の中では、いわば不完全な商業施設です。でも、昭和のまち並みや古い蔵を生かした、元気な商店街もあります。古さなどの“弱点”を逆手にとり、そこに“夢”というスパイスを加えれば、消費者は、「古いけど、いえ、古いから、とてもすてきね!」と言って、愛してくれるのではないでしょうか。
不完全だけど、とても夢のある店や商店街なら、消費者との間に、何かしらの“共感”が生まれてきそうです。そしてその共感は、郊外に建ち並ぶ大型店では、たぶん絶対に感じることができないものです。
