老舗の生きる道
老舗が倒産したというニュースを目にするたびに、「やはり」という思いと、「どうして」という思いが交錯します。「やはり」のほうは、老舗の看板だけでは、やっていけない時代なのだ、という思い。「どうして」のほうは、長年の経営体験と、膨大な顧客名簿があるはずなのに、なぜそれを活用できなかったのかという憤りです。
たぶん老舗の経営者にはプライドがあり、台所事情がどんなに苦しくても、なかなか人には相談できません。経営が火の車になり、事態が周囲に明らかになったときには、すでに手遅れ。老舗の倒産が、突然のニュースとして報道され、世間を驚かせる背景には、そういう事情がありそうです。
ただし、過疎化や大型店の脅威等、外因の厳しさに負けずに、しぶとく生き抜いている老舗もたくさんあります。実は日本は、老舗大国。人の寿命のように、店舗経営にもどうやら“長寿のひけつ”があるようです。
儲かるより、役に立つ
『千年、働いてきました−老舗企業大国ニッポン』(野村進著・角川oneテーマ21)は主に工業、製造業に注目しながら、世界の中でも日本がダントツで老舗の多い理由を分析した本です。企業の寿命はよく「三十年説」が言われますが、創業から百年をとっくに超えている企業、店舗はざらにあります。
それらの長寿企業は、古い技術を大切にまもりながらも、それぞれの時代の要望に応えることで、生き抜いてきました。培った技術に磨きをかけて、新しい需要に応えていくこと。そうすれば古さは弱点ではなく、逆にオンリーワンの特色という武器になるようです。
もう一つ、老舗の心得として重要なポイントがあります。経営であれば、より儲かる道を選びたくなるもの。でもまずは、お客様にとって、役に立つ企業であることを心がける、という点です。いわば職人的な律儀さ。そういう経営理念を持っている企業が、結果として時代を生き抜き、老舗と呼ばれるようになったのでしょう。
ちなみに日本一古い企業であり、世界一の長寿企業であるのが、大阪の金剛組という建築会社。西暦五八七年の創業で、五九三年に難波の四天王寺を建てたのが初仕事と言われます。実に飛鳥時代に創業し、千四百年以上の歳月を生き抜いていることになります。
商業も、江戸時代にはいっきに商店数が増え、その後は明治維新や戦争、恐慌、天災などで淘汰が繰り返されました。最近は郊外店の影響での廃業も増加。しかしそういう淘汰に耐えて、堅実な営業を続ける店は、各地の商店街でよく見られます。店は“大きさ”より“強さ”が大切と感じられる光景です。
改革の連続を
老舗という言葉には、『伝統をまもる』というイメージがあります。たしかに、伝統は大切。でも昔からの商品、サービス、技術をまもるだけでは、時代とともに変化する消費者の欲求に応えることはできません。
金沢の江戸期創業の菓子店など、老舗にはよく、『伝統とは改革の連続である』という家訓があります。お菓子であれば、現代人の味覚に合うように、甘さや食感を変えること。だから老舗の生き方とは、昔通りのやり方を継承することではなく、老舗のイメージをまもりながら、時代に合わせて変化する柔軟性を持つ、ということなのでしょう。
さて、百年後を考えた場合。大型店、全国チェーン店たちのうち、どれだけが『企業寿命三十年説』に耐えて残っているでしょうか。商店街では、どういうポリシーの店が経営を続け、いぶし銀の輝きを見せているでしょうか。タイムマシンがあるなら、ぜひのぞきに行ってみたいところです。
