《第129話》

弱点はエネルギー


  

 経営革新を図るとき、よく使われるのがSWOT分析です。自店の強み(S)、弱み(W)、それと自店の周りにある機会(O)、脅威(T)をリストアップして、それらの比較検討から、具体的な進路を探るという手法。その際、もっともオーソドックスなのは、「強み」と「機会」の組み合わせでしょう。自店の強みを生かせる分野への進出で、活路を拓くビジョンを構築するものです。

 しかしSWOT分析が、必ずしも成功を生むとはいえません。理由は、この分析には主観が入りやすいからです。たとえば自店の強みと思っていることが、世間的にはそれほどの強みでなかったり、機会と考えたジャンルは、予想以上に競争が激しかったり。特にワンマン経営者の場合は、ひとりよがりの読み違いでの失敗は、ありがちなことです。

 それだけでなく、謙虚な経営者にも、思い込みは生じがち。それはSWOT分析の際、「弱み」をダメなことと決めつけてしまうことです。でも、弱みは必ずしも、マイナスとはかぎりません。時によっては、とんでもないエネルギーに化けることもあるものです。

コンプレックスの意味

 先月号で紹介した『もち処木の幡』(福島県南相馬市)は、子供の偏食にほとほと困った母親が、食材をホットケーキに包むという原体験があったことが、もちを揚げる「凍天」という大ヒット餅菓子の誕生につながりました。もしも子供がまったく好き嫌いのない子だったら、そういう発想はたぶん生まれなかったでしょう。

 弱点に悩むのは、誰にでもあることです。人知れずそれをカバーしたり、真剣に解決策を探る人は多いはず。弱点の存在は、ぼんやりした強みより、ずっと具体的で、強烈な思いを心の中に引き起こす効果がありそうです。

 弱点や欠点というと、コンプレックスという言葉も連想されます。その意味を「劣等感」と考える人が多いのですが、コンプレックスの本来の意味は、「複雑な組み合わせ」。弱点を持っていることのつらさ、口惜しさや、なんとかしてそういう状態を脱出したいという心の底からの欲求。それらが入り混じった複雑な感情が、コンプレックス。それは自分を奮い立たせる大きなバネにもなるものです。

 松下幸之助は、病弱、貧困、小学校4年中退という少年時代を過ごしました。そして経営者となってからは、昭和初期の大恐慌など数々の試練を乗り切り、ついには経営の神様と呼ばれるようになりました。世間的に見れば不遇な少年時代の環境が、実はたくましさを生む根源だったことは、十分に推察されます。

弱点を言い訳にするな

 とはいえ、実際は、弱点を負い目に感じて、バネにすることができない人が多いものです。店が小さい。立地が悪い。店主の高齢化。そういう不利な要因を、ダメなことと考える商店主が多いことでしょう。でも、そういう気持ちでSWOT分析をしても、活路を拓くのは難しそうです。たぶん店と自身の弱点を書き並べて、「だから活性化できない」という、言い訳に使いかねません。

 そこで視点を変えて、弱点を逆手にとることを考えてはどうでしょう。不利な条件を嫌うのでなく、そこに活路を探すという発想。たとえば山間立地なら、山間というクリーンな環境を生かした商いを考える、という具合です。

 有利な条件をあえて捨てることが、成功への道を拓くことさえあります。坂本龍馬は日本を変えるため、脱藩という道を選びました。身分を捨てて、何もない不利な状態を自ら選ぶ。でもそれこそが、「何でもできる」すごいエネルギー源だったのかもしれません。




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